起業という幻想——なぜ99%の人は夢で終わるのか

起業という幻想——なぜ99%の人は夢で終わるのか

起業という幻想——なぜ99%の人は夢で終わるのか

 

みなさんは「起業」という言葉を聞いて、どんなイメージを思い浮かべるでしょうか。きっと多くの方が、自由な働き方や大きな成功、そして経済的な独立といったキラキラしたものを想像されるかもしれませんね。

 

実際、書店のビジネス書コーナーには「起業で成功する方法」といった本が並び、SNSでは「会社員を辞めて起業しました!」という投稿が日々流れています。まるで起業が現代の新しいライフスタイルの選択肢として、当たり前のように語られているような気がします。

 

しかし、ちょっと立ち止まって考えてみてください。本当にそんなに簡単なものなのでしょうか。私自身、これまで多くの起業家や起業を志す人たちを見てきましたが、正直なところ、成功している人の方が圧倒的に少ないのが現実です。

 

今回は、起業という選択肢について、少し違った角度から考えてみたいと思います。なぜ多くの人が起業に憧れるのか、そしてなぜその大部分が実現に至らないのか。教科書的な成功法則ではなく、もう少しリアルな視点でお話ししていきますね。

 

1. 起業ブームの正体——メディアが作り出した幻想

 

最近の起業ブームを見ていると、どこか違和感を覚えることがあります。まるで起業することが、現代人にとっての「正解」のように語られているからです。

 

でも、よく考えてみてください。人類の歴史を振り返ってみると、多くの人が雇われて働くという形態が主流になったのは、実はそんなに昔のことではありません。産業革命以降、特に戦後の高度経済成長期に確立されたシステムなんですね。

 

それ以前は、農業や手工業といった形で、多くの人が何らかの形で「自営業」のような働き方をしていました。つまり、起業というのは決して新しい概念ではなく、むしろ人間本来の働き方への回帰とも言えるのかもしれません。

 

1-1. SNSが演出する「成功物語」の罠

 

現在の起業ブームを語る上で避けて通れないのが、SNSの影響です。TwitterやInstagramを開けば、毎日のように「脱サラして起業しました!」「月収○○万円達成!」といった投稿が目に飛び込んできますね。

 

こうした投稿を見ていると、起業って意外と簡単なのかも、と思ってしまいがちです。でも、ここに大きな落とし穴があるんです。

 

SNSというのは本質的に「見せる」メディアです。人は自分の成功や良い面を積極的に発信しますが、失敗や苦労については意外と語りたがりません。結果として、成功事例ばかりが目立ってしまい、起業の現実的な困難さが見えにくくなってしまうのです。

 

私の知人にも、SNSでは順調そうに見えていたのに、実際には資金繰りに苦労していた起業家がいます。表向きは華やかに見えても、裏では血のにじむような努力と不安の日々を送っている人が多いのが実情なんですね。

 

また、成功した起業家の体験談も、後から振り返って美化されている部分があります。人間の記憶というのは不思議なもので、辛かった時期のことは徐々に薄れていき、成功体験の方が鮮明に残るものです。だからこそ、「起業は素晴らしい」という話ばかりが語り継がれるのかもしれません。

 

1-2. 「好きなことで生きていく」という甘い誘惑

 

起業を考える人の多くが口にするのが「好きなことで生きていきたい」という言葉です。確かに、自分の情熱を仕事にできれば、それ以上に幸せなことはないでしょう。

 

でも、ここで一つ問題があります。「好きなこと」と「お金を稼げること」は、必ずしも一致しないということです。

 

例えば、料理が好きだからレストランを開く、写真が趣味だから写真スタジオを始める。一見すると理想的な選択に思えますが、実際にはそれまでとは全く違うスキルが求められます。料理が上手でも、仕入れや人事管理、マーケティングができなければ経営は成り立ちません。

 

私が見てきた中で印象的だったのは、プログラミングが大好きでシステム開発会社を立ち上げた人の話です。彼は技術的には非常に優秀だったのですが、営業や経理といった「好きではない仕事」が増えるにつれて、だんだんと疲弊していきました。結果的に、会社員時代の方が純粋にプログラミングに集中できて幸せだったと言っていました。

 

起業というのは、好きなことを仕事にすることではなく、ビジネス全体を回すことなんですね。そこには、自分が得意でないことや、時には嫌いなこともたくさん含まれています。

 

2. 起業の現実——美化されない真実

 

起業について語られる時、どうしても成功例や理想論に偏りがちです。でも、実際に起業を検討するなら、もっとリアルな現実を知っておく必要があります。

 

統計を見ると、新しく設立された会社の約6割が5年以内に廃業するというデータがあります。つまり、起業した人の半数以上が、5年も経たないうちに諦めることになるのです。これは決して脅しではなく、冷静に受け止めるべき現実なんですね。

 

でも、なぜこんなに多くの起業が失敗に終わるのでしょうか。その理由を探ってみると、起業に対する根本的な誤解があることが見えてきます。

 

2-1. 「自由」という名の重い責任

 

起業を志す人の多くが求めているのが「自由」です。上司に縛られない自由、好きな時間に働ける自由、自分で決断できる自由。確かに魅力的に聞こえますね。

 

でも、実際に起業してみると、会社員時代よりもずっと不自由になることが多いんです。なぜなら、全ての責任が自分にかかってくるからです。

 

会社員なら、定時になれば仕事を終えて帰ることができます。でも起業家には、基本的に「定時」という概念がありません。売上が上がらなければ休日も関係なく働き続けなければいけませんし、トラブルが起きれば夜中でも対応しなければなりません。

 

私の知り合いの起業家は、「会社員時代は有給休暇が取れないことに不満を持っていたけど、起業してからは有給どころか土日すら休めない」と苦笑いしていました。皮肉な話ですが、自由を求めて起業したはずが、結果的にはより不自由になってしまったのです。

 

また、すべての判断を自分で下さなければいけないというのも、想像以上にストレスフルです。会社員なら、最終的な責任は上司や会社が取ってくれますが、起業家には誰も代わりに責任を取ってくれません。毎日が重要な決断の連続で、その一つ一つが会社の運命を左右するのです。

 

2-2. 孤独という見えないコスト

 

起業の難しさとして、あまり語られないのが「孤独」の問題です。これは実際に体験してみないと分からない部分かもしれませんね。

 

会社員なら、同僚と愚痴を言い合ったり、上司に相談したりできます。でも起業家は基本的に一人です。特に個人事業主として始めた場合、相談相手がいないまま重要な判断を迫られることが多々あります。

 

この孤独感は、メンタルヘルスにも大きな影響を与えます。成功している時はいいのですが、うまくいかない時期が続くと、「本当にこの道で良かったのだろうか」「もしかして自分は間違っているのではないか」といった疑念が頭をもたげてきます。

 

私が知っている起業家の中にも、業績は順調だったにも関わらず、孤独感に耐えきれずに会社を畳んでしまった人がいます。彼は「数字的には成功していたけど、誰とも成果を分かち合えないのが辛かった」と話していました。

 

また、友人関係にも変化が生じることがあります。起業すると、どうしても仕事の話が中心になりがちですし、生活リズムも一般的な会社員とは違ってきます。結果として、これまでの友人とは疎遠になってしまうケースも少なくありません。

 

2-3. 資金調達の現実——投資家は思っているほど甘くない

 

起業関連の記事を読んでいると、「投資家から資金調達に成功!」といったニュースをよく目にします。でも、実際に資金調達を経験した人なら分かると思いますが、これは想像以上に困難な道のりです。

 

まず、多くの人が誤解しているのが、投資家は「アイデア」に投資するのではないということです。彼らが投資するのは「実績」と「成長可能性」、そして何より「人」なんです。

 

どんなに素晴らしいアイデアを持っていても、それを実現できる能力や実績がなければ、投資してもらうことは難しいでしょう。投資家は慈善事業をしているわけではありません。彼らも投資したお金を回収し、利益を得る必要があるのです。

 

また、資金調達には思っている以上に時間がかかります。投資家との面談を重ね、事業計画を何度も練り直し、デューデリジェンス(投資前の詳細調査)を受ける。このプロセスだけで数ヶ月から1年以上かかることも珍しくありません。

 

その間も、当然ながら事業は継続しなければいけませんし、生活費も必要です。資金調達活動に時間を取られて、肝心の事業が疎かになってしまうという本末転倒な状況に陥ることもあります。

 

3. それでも起業を選ぶ理由——成功する人の共通点

 

ここまで起業の厳しい現実について書いてきましたが、それでも起業を選び、成功を収める人たちがいるのも事実です。彼らは一体、どこが違うのでしょうか。

 

成功する起業家を観察していると、いくつかの共通点があることに気づきます。それは決して、特別な才能や運に恵まれているからではありません。むしろ、現実的な視点と継続する力を持っているからなのです。

 

3-1. 「なぜ」から始める人たち

 

成功する起業家の多くは、「何をするか」よりも「なぜするか」を明確にしています。単に「儲かりそうだから」とか「自由になりたいから」といった理由ではなく、もっと深い動機を持っているのです。

 

例えば、私が知っている成功した起業家の一人は、「高齢者が安心して暮らせる社会を作りたい」という強い想いから介護関連事業を始めました。彼の場合、祖父母の介護を通じて現在のシステムの問題点を痛感し、それを解決したいという切実な動機がありました。

 

このような明確な「なぜ」があると、困難な状況に直面しても諦めずに続けることができます。単に利益を追求するだけの事業なら、うまくいかない時期に「もういいや」と投げ出してしまいがちですが、社会的な使命感を持っている人は粘り強く取り組み続けます。

 

また、明確な「なぜ」は、顧客や協力者の共感を呼びやすいという側面もあります。人は理屈だけでは動きませんが、ストーリーや想いには心を動かされるものです。結果として、ビジネスがうまく回り始めるのです。

 

逆に、明確な動機がないまま起業した人は、最初の困難でつまずいてしまうことが多いようです。「なんとなく起業してみたけど、思っていたより大変だった」という理由で諦めてしまうのです。

 

3-2. 小さく始めて大きく育てる現実主義

 

成功する起業家のもう一つの特徴は、最初から大きなことを狙わないということです。多くの人が起業に対して抱く幻想の一つが、「一発当てて大成功」というものですが、現実的には小さな成功を積み重ねることの方が重要なんです。

 

私が見てきた成功例の多くは、最初は副業レベルから始めています。本業を続けながら週末や夜間に事業を始め、ある程度軌道に乗ってから本格的にシフトしているのです。

 

これには複数のメリットがあります。まず、リスクを最小限に抑えることができます。いきなり会社を辞めて起業するのは、経済的にも精神的にも大きな負担になりますが、副業から始めれば生活の安定を保ちながらチャレンジできます。

 

また、小さく始めることで、市場のニーズや自分の能力を冷静に評価することができます。いきなり大きな投資をしてしまうと、うまくいかなかった時の修正が難しくなりますが、小規模であれば柔軟に方向転換することが可能です。

 

実際、多くの成功した起業家は、最初に考えていたビジネスモデルから大きく方向転換しています。市場の反応を見ながら、より需要のある分野にピボット(方向転換)していくのです。これは、小さく始めているからこそできることなんですね。

 

起業のためのヒント

 

まとめ

 

起業というのは、確かに多くの人が憧れを抱く選択肢です。自分の思い描いた事業で成功を収め、経済的な独立を果たす。そんな夢のような話に心を躍らせるのは、ごく自然なことでしょう。

 

しかし、現実はそう甘くありません。統計が示す通り、多くの起業は失敗に終わりますし、成功したとしても、そこに至るまでの道のりは想像以上に険しいものです。SNSで見かける華やかな成功談の裏には、見えない苦労や犠牲があることを忘れてはいけません。

 

起業を検討する際に重要なのは、現実を直視することです。自由を求めて始めたはずが、実際にはより多くの責任と制約を背負うことになるかもしれません。好きなことを仕事にしたかったのに、営業や経理といった「好きではない仕事」に追われることになるかもしれません。

 

それでも、明確な動機と現実的なアプローチを持っている人は、起業で成功を収めています。彼らに共通しているのは、「なぜその事業をするのか」という強い想いと、小さく始めて着実に成長させていく堅実さです。

 

起業は決して万人にとっての正解ではありません。会社員として働くことにも、それなりの価値と安定があります。重要なのは、流行や憧れに惑わされることなく、自分にとって本当に適した道を冷静に見極めることではないでしょうか。

 

もし起業を真剣に検討しているなら、まずは小さな一歩から始めてみてください。副業レベルでも構いません。実際に市場と向き合ってみることで、起業の現実が見えてくるはずです。そして、その現実を受け入れた上でも続けたいと思えるなら、それが本当にあなたが歩むべき道なのかもしれませんね。